2013年5月22日水曜日

アルカナハート回想録7



【ゲーム内容をまとめる】

ここまでで出たアイデアを、もう一度「格ゲーヒットの法則」に当てはめて、まとめ直してみるとこうなります。
自己採点つきで。

・◎メインシステム:アルカナセレクト
ゲームシステムと世界観との融合、それに少ないキャラクター数で遊びの幅を増やせたことは、私的にはうまくいった部分かなと思っています。ただ、かなり複雑な要素なので続編の製作に関しては非常に困難になってしまいました。

・◎サブシステム:ホーミング
他の格闘ゲームにない特徴を出すといった点、成熟してアイデアが出づらいジャンルでの新要素という点では、頑張った方かなと思っています。粗削りだった部分ももちろんありますが、続編ではシステムとしての完成度が高まったのではないでしょうか。

・○背景変化:聖霊空間
世界観との融合の点や、知っている風景の別の姿が見えるという面白さの点では満足しているのですが、基板のスペック、予算、期間などの問題で、動かない一枚絵にならざるを得なかったのが心残りです。対戦中にモブをおけない代わりとして開始前演出があったのですが、この仕様もカットされたのも残念でした。

・○特徴的な主人公:アホ毛、リボン
キャラクターの魅力はデザイン担当の瑞姫氏とシナリオ担当のさくらい氏の力が大きいですが、ゲームを代表するキャラクターの作成という点では、念願だったアルカディア大賞を頂けるなど、一定の評価はしてもらったのかなと思っています。製作しながら設定をいじくり回してしまったので、少々ちぐはぐな部分が残ってしまったのが心残りですが、シリーズの中では、今でも一番好きなキャラですね。

・△最先端のグラフィック :なし、見せ方で補完
コストと基板スペックの問題が大きいとはいえ、当時の最先端にまで到達できなかったのは残念です。その分、これまでにない演出を入れる事で、及第点くらいにはなったかなと。

・×誰が強いかのコンセプト:なし、シナリオで補完
ここは反省点です。シナリオで闘う理由付けを補完してもらえたので、なんとかなったかなという具合です。
後から「アルカナ側に戦う設定を持たせればよかったんだ」と思い付き、この発想がデモンブライドへと繋がっています。

企画当時の事を思い出しながら書き連ねてみましたが、当然、個人で考えたばかりのアイデアではなく当時の優秀なスタッフがまわりにいて出来上がったものでした。

ここまで書いてみて、自分が思っていたよりも、かなり長い文章になってしまいました。
開発現場ではこのあと、胃の痛くなるような、いろいろな事件が巻き起こるのですが、またの機会にでも書ければいいなと思います。

長文にここまで付き合っていただいた方、ありがとうございます。

2013年5月10日金曜日

アルカナハート回想録6



6.キャラクター数

当時、市場に出ていた格闘ゲームにはキャラ数が20人以上いるのが当たり前でしたので、流行らせるためには一作目とはいえ最低でも16体くらいが必要。
しかし、制作費はどう考えても10体分くらいしかないわけです。

そこで、メインシステムの所で考えた、”キャラとシステムを選ぶ”というアイデアを組み込んでみたんですね。
キャラが10体しか作れないなら、システムも10個つくって、かけて100体分遊べるってのはどうかと。

組み合わせが100通りと言うのは、同じキャラでも何回か遊んでもらえるし、宣伝文句としても通りがいい、何よりも面白そうだなと。

しかし、こんなシステムを作ると、システムも調整もめちゃくちゃ複雑になるし、キャラを足す毎にシステムとの掛け算をしなきゃいけなくなってしまう。
実際、フィオナ一人追加するだけで100通りから、122通りの組み合わせに増えてしまった。

なので、このシステムをいれる時点で、続編の製作は諦めていました。

7.魅力的な主人公
人気のある格闘ゲームは例外なく主人公のキャラがたっています。例えキャラ人気が低かったとしても、主人公を見ればゲームの内容や世界観が理解できる。そういう存在です。

なので、愛乃はぁとのデザインには、かなり時間をかけました。

主人公をデザインするにあたり、まずはゲーム全体の世界観を固めるため、いろんなアニメや漫画を調べまくりました。忙しいこともあって、アニメや漫画をみる機会が減っていたので、当時の流行りモノをスタッフに聞いたりネットで調べたりして、まとめて見ました。

その時見たものや過去の記憶から、いろんなアイデアは借りてきてますが、中でも特に参考にしたのが「ネギま」「リリカルなのは」「舞-乙HiME」ですかね。

流行っているものを調べていると、この3作品の共通点が「女子中学生が空を飛びながら魔法を使って闘う」って事だった。

あぁ、これか、とストンと落ちた。

企画当初は「舞姫」とか「一騎当千」あたりのイメージしていたので、主人公が高校生だったんですね。
で、製作途中で「舞-乙HiME」が発表された時に、主人公が中学生になっちゃってる。
完全にアニメキャラの流行りが中学生まで落ちてたんですよね。だから無理を言って、中学生という設定にしてもらった。

はぁとのグラフィックがある程度出来てきてから、中学生に変更させた犯人は私ですね。

で、女子中学生が闘うことが決まったので、納得出来るそれらしい設定が必要。ということで生まれたのが、妖精や天使の力を借りて、空を飛び魔法で闘う。というものでした。はぁとがパルちゃんのことを「天使さん」と呼んでいるのはその名残ですね。

以前から神智学とか妖精の存在の議論には興味があって、いつかネタにならないかなと思っていたのが、ここでピッタリとはまりました。

実話で”コティングリー妖精事件”って言うのがあって、少女が撮影した妖精の写真をめぐって、イギリス中が大騒動になった事件。コナンドイルとかも関わってた実際に起きた事件です。フェアリーテイルという映画にもなってます。
「女の子だけがアルカナを見ることができる」と言う設定は、このお話がベースになっています。

世界観がまとまり、ようやく主人公のデザインです。2000年代前半まで萌え系アニメの主人公は大体、特徴的な髪型をしているもんでしたが、キャラのニーズは段々と地味な方に向いてきている頃でした。ときメモの主人公の経緯を見ればわかりやすいですね。

この当時、主流になりかけていたのは、見た目は普通で、性格や物語の位置付けでキャラを作っていく方法。
しかし格闘ゲームの場合はそういうわけにはいかない。一目見て記憶に残るキーワードが必要なんですね。そして黒く塗りつぶしてもシルエットでわかる方がいい。ミッキーマウスやキティがこの典型ですが、格闘ゲームの主人公として定着しているキャラを並べても、だいたいはこの条件はクリアしてる。

そこでハート型のアホ毛というアイデアが出た。
これならシルエットがはっきりわかって印象も強い。
単純なアイデアだけど有名な前例もなかった。

このキーワードが決まれば後は早い。
これまで何度も没にしてきたキャラのパーツを組み合わせて完成。最後に格闘ゲームの主人公といえばハチマキだろうと言うことで、いろいろ試してみたけれどうまく行かなかったのを担当デザイナーがドット絵の腕にリボンを巻いたのが好評で採用となりました。

基本ポーズが、格闘家っぽい構えなのは、いまいち世界観やゲーム性が固まりきらないまま作り始めたので、そのなごりですね。

平行して他のキャラのデザインを進めるわけですが、正直、私にもゴールが見えていないので、デザインをみてもいまいちしっくり来ない。
で、またデザインを起こしてもらうんですが、没を繰り返すということを何度もやってしまった。
デザイナーには本当に苦労をかけたと思います。

と、ここまでで「7つの法則」はおしまいです。
文章にすると順序よくアイデアを出しているようですが、実際には、発案と没の繰り返しで、何度も何度も打ち合わせを繰り返して、ようやく答えにたどり着く、というような作業を延々とやっていました。

2013年5月8日水曜日

アルカナハート回想録5



3.独自性を出すサブシステム

アルカナハートでは「ホーミング」がサブシステムにあたります。
これは当時、スト3サードで言うところのブロッキングに値するシステムとして考えたものです。
えっ!って思うかも知れませんがそうなんです。

根強いファンがついている格闘というのは、なにかひとつ他のゲームにはない特徴を持っていますよね。例えばジェムだったりジャストディフェンスだったりとか。 キャラ単体で見ても特徴的な技をもつキャラは長く愛されます、炎邪とかズィーガーとか。

固有のサブシステムによって、独自の立ち回りが必要となる。
この部分が無いか薄いと、他の格闘ゲームでいいじゃないかと言うことになり、逆に突出しすぎていると他の格闘ゲームで培ったセオリーが通じずプレイ層が狭くなるか、バランス崩壊を起こしてしまう。まさに諸刃の剣ですね。

ホーミングのシステム案はかなり初期からあって「打ち上げて追いかけて叩き落とす」という一連のコンボを、サムスピの絵を使ってテストしていました。
イメージ動作を簡単に作って、プログラマさんに、こんなことやりたいんだけど出来る?みたいな感じで。

正直、このシステムは行けると思っていました。
元々2D格闘というのは横軸移動での読みあいが適しています。そこへ2段ジャンプ、空中ダッシュなどの要素が入ってきて縦軸の移動の自由度が増えた。
そうすると当然、キャラ同士が接触する機会が減ります。
対処作として、技のあたり判定を大きくするか、でかい飛び道具を打つゲーム性になっていくわけですよね。

ホーミングは、ボタンひとつで必ず相手と接触する位置まで移動できるので、縦や横への移動範囲が広くなっても、どこかで必ずキャラが接触できる。
ホーミングのおかげでこれまでにないほど画面を動き回れるゲームデザインにすることが出来ました。

4.画期的な背景演出
ステージについては、天草降臨の天草空間や、飢狼伝説でのラウンド数や時間経過で変化するといった演出に影響を受けていて、世界感を説明するだけでなく、状況の変化をわかりやすく見せることが出来る優れた見せ方だとずっと思っていました 。
プレイしていない人や、ゲームシステムやキャラをよくわかってない人は、見ているだけでも、画面の変化を感じられますしね。

特にパワーアップ時に背景が変化するという要素は、ゲーム展開のメリハリと連携でき、気分も盛り上がるので、入れ込みたかった。

たまたま、アルカナで使っていた基盤というのが、一度にたくさんの絵を読み込んで置くことができたので、広大なフィールドを2枚分をロードを行わず切り替えることが出来たんですね。

世界観設定も同時に考えていたので、じゃ、今見えている背景とは別に平行世界があって、パワーアップした時に平行世界が見えるのはどうかなと考えて、それならば実際にある場所の方がいいよね。って流れで、実在の場所をステージに使うことになりました。
関東が舞台になっているのは、学園物なので地域を限定しようってのもありますが、どちらかといえば単純にプレイヤー人口が多かったからです。
この時は、海外展開も一切考えていませんでしたし。


5.最先端のグラフィック

最先端のグラフィックだけはどうしても実現が出来なかった。何故かというと2D格闘のコストのほとんどはグラフィックにかかるからです。
制作費=グラフィックのレベルと言っても良いくらい。

正直、潤沢とは言えない制作費だったので、かなりコストダウン出来る方法で作画してはいますが、それでも動作枚数は大幅に削る必要がありました。
初代アルカナハートは、当時の他のゲームと比較しても、技の数が少ないのは単純に制作費の問題です。

私の中では、これだけ技が少ないなら対戦格闘とは呼べないんじゃないかというのもあって、ジャンルが対戦アクションになっています。

でも、実ははぁとだけ動作が多いんですよ。
例えば、空中専用のアルカナ技アクションがあるのは、はぁと冴姫だけですね。
最初にはぁとを作ってみると結構時間がかかった。で、他のキャラを作る際には動作枚数を削らなければいけなくなり、地上モーションの足元に魔方陣を置いてみたら、全然違和感ないので、じゃ、他のキャラはなくしましょうと。
そうやって、かなりの工夫を重ねて枚数を減らしてます。

しかし、極限まで動作を減らせといっておきながら、ホーミングだけは削らないでくれ、と。この動作だけは、他のゲームとの差別化に必要でしかも使い回しが効かない。

ゲームを作りかけでまだ完成形を模索していたこともあって、グラフィッカーからはホーミング動作を削ってくれと随分言われましたね。でも、お願いだから残してくれと。 舞織なんかはどの方向を向いてても同じ絵で済むようにしてでも残しました。

それじゃ、削るだけ削っておしまいかと言えばそうではなく、別の工夫を盛り込んでいます。それがアルカナブレイズです。グラフィックを綺麗に出来ないのであれば、見せ方を工夫しようということで、最初にパルティニアスの巨大玉が出来た。さすがにあそこまで大きい飛び道具を2D格闘では見たことがないだろうと。
そうするとスタッフからいろんなアイデアが出てきて、逆にすごく小さいテンペスタスなんかが生まれてきたんですね。


2013年2月14日木曜日

アルカナハート回想録4

1はこちら


前回までで、ゲームの大まかな方向性が見えてきたけど、いまいち輪郭がぼんやりしているので、細部を積めていきます。このあたりで、ようやくユーザーの皆さんが目にする物が見えてきます。

一応、ヒット作を目指して企画を進めてはいたので、驚異的なヒット作には必ず入っている要素として言われている「性的魅力、勝負、知性、社会性」の4つの要素を入れ込んでみようとも思いましたが、そもそもゲームの時点で社会性は損なわれているわけで、格闘ゲームに限った範囲での「ヒット作の法則」を過去作から自分なりに考えてみました。

ざっと並べると、こんな感じ

1.格闘のコンセプトがしっかりしている
2.メインとなるゲームシステムがある
3.独自性を出すサブシステムがある
4.画期的な背景演出
5.最先端のグラフィック
6.魅力的な主人公
7.キャラクター数は20体以上

細分化すればもっと増えますが、大きくこの7つに大別し、過去作の特徴をエクセルで一覧にしてみると、やはりヒット作はこの要素を満たしているか、欠けていてもどこかが突出している。
そこで7つの要素をアルカナハートに当てはめていく作業をしました。順番に説明していきます。



1.格闘としてのコンセプト
格闘ゲームの歴史を見ていくと、最初は「世界中の格闘技の中から一番強い者を決める」という所から始まり、闘うキャラがモンスターになったりロボットになったりして行きました。でも、「○○の中で誰が最強か?」
という基本コンセプトだけは、しばらくブレる事なくタイトルが増えていきました。

そういう視点でみると、ワールドヒーローズと言うのはそうとう優れていると思うんですよ。なんといっても「歴史上で一番強いのは誰か?」ですから、楽しいに決まってるじゃないですか。そこへリョウコが出てきたあたりから、ちょっとおかしくなってしまい、シリーズ後半、アニメや漫画のキャラみたいなのばかりになったのが、一人のファンとしては残念でした。

で、この「最強」ネタが90年後半あたりから尽きてしまい、キャラクター性に頼るようになっていくわけですね。

アルカナハートですが「萌えキャラで一番強いのはだれか?」って言われても、いまいちピンと来ない。学園最強ならジャスティス学園等がやってますしね。そもそも萌えって闘う要素じゃないし、と言うことで格闘ゲームのコンセプトからはかなり外れちゃってるんですよね。

それを、なんとかごまかさないといけない。
これにはずいぶん悩みました。



2.メインとなるゲームシステム
スト2で2D格闘の基本システムは完成されてるので、以降のゲームでは、主にゲージに関わるシステム部分のことですね。飢狼2では超必殺が使えたり、カプエスではゲージ自体をセレクト出来たりと、スト2以降は主にゲージの使い方でゲームの差別化をしてきた。

ゲージに関しては、パッと思い付くようなアイデアは出尽くしていたので、カプエスにあったようなゲームシステム(ゲージやど特殊動作など)のセレクトではなくて、同一のゲームシステム上で、キャラ性能に変化を持たせられないかと考えました。

サードのスーパーアーツセレクトでは、超必殺技が選べますが、大きく立ち回りが変わるまでは行かないので、もっとキャラの立ち回り全体を変えてしまえるようなことは出来ないのかなと。

以前に作った数ある没企画の中に、いつか使いたかったアイデアがありました。
それは甲殻機動隊のような世界感のサイボーグ警察物の企画だったのですが、キャラ本体の他に「相棒ロボ」や「特殊能力」をつけることが出来ると言うものでした。

これまで、ナコルルの鷹と狼を付け替えると性能が変化したり、修羅と羅刹で2種類のキャラ性能が変化するといった物を作り続けていたので、この延長でもっと幅を広げられないか?と考えていたのが発想の元になっていました。

キャラ本体の性能の他に、もうひとつ別の性能を組み合わせることでキャラカスタマイズが出来るってことですね。

でも、ゲージとかシステムを選ぶのをやっちゃうと、シリーズが終わるんですよね。サムスピもそうでしたし、カプエスもそう。これ以降やることがなくなっちゃう。

さて、3以降は次の回に書くことにします。

続く

2013年1月18日金曜日

アルカナハート回想録3

1はこちら

【ゲームシステムを考える】
新作格闘ゲームの製作が決定した。

アーケードゲームの売り上げは下降線を辿り、格闘ゲームというジャンル自体が廃れていっている時勢、ほとんどの企画がこの製作決定前に企画倒れとなる事を考えれば、この時点で一番の難関は乗り越えることが出来たようなもの。そう思いました、この時は本当に。

さて、ここまで来て、ようやくゲームの内容を詰めていく作業に入れます。
クライアントの要望をいくら取り入れたところで、格闘ゲームマニア層に指示されないようではゲームでは売り逃げして終わりになってしまう。

それじゃ、せっかくのチャンスも逃してしまうって事で、格闘ゲームの内容についてはかなり考え込みました。 幸い、ゲーム性についてはクライアントも口を出してきません。

おおまかな世界観は決まっているので、まずは世界観に合わせた基本システムの組み立てです。 
学園の設定とか守護聖霊とかはぁとの性格とかが出来てくるのは最後の方ですね。いわば後付け。

とりあえずターゲット層を再確認。
一番、重要視しなければいけないのはコアユーザー。
もう、これだけははずせない。

しかし、全員女キャラと言うわけで、本格的な格闘ゲーマーはそれほど多く遊んでくれないだろう。どちらかと言えば、アニメファン層に受け入れてもらいたい。
そもそもが、メルブラの二番煎じ企画なので、ターゲット層は大体をこの辺りを中心に、格闘ゲームを遊んでいる人たちになるだろうと予測。

次は、どういう方向のゲームにするかをざざーっと考えてみます。作りたい、遊びたい、求められてる、と思ったものをとにかく思い付くまま出してみたんですね。

格闘ゲームは大きく「コンボゲー」と呼ばれる、連続技を気持ち良く繋げていき、大ダメージを与えるタイプの物と、「差し合いゲー、読み合いゲー」と呼ばれる、対戦相手との、心理戦を重視した物に大別されます。
既存の格闘ゲームは、このどちらか、もしくは、この二つの要素を上手く取り入れてゲームデザインされており、後期の作品になるほどコンボゲーの比率が高まっています。

時流とインカムを考えれば、当然コンボゲーになるだろうと考えました。個人的には差し合いのゲーム性は大好きですが、対戦相手との読みあいが重視されるゲームは往々にして、CPU戦がつまらなくなりがちです。
CPU戦がつまらないと一人用が遊ばれなくなるので、対戦も発生しづらくなりインカムが上がりません。
ゲーセンからすれば、どんなに面白いゲームでもインカム、つまりお金が入らなければ必要ない物になります。

なので、おのずと一人でも練習ができるコンボ要素を入れることになっていきます。 
それならば、いっそコンボが気持ちよく繋がりまくるようにしてはどうかと発想しました。
このあたりで、既存の格闘ゲームで出来ることはなんでも出来てしまうゲーム性はどうかと考え始めます。

ダッシュ、ラン、2段ジャンプ、スーパージャンプ、空中ダッシュ、打ち上げからの空中コンボ、必殺技キャンセル、バースト等々。ありとあらゆる格闘ゲームの要素が入っていて、しかもゲームとして成り立っている。言ってるだけでもかなり無茶な企画ですね。

ここまでで「全員女キャラ、学園物、素手格闘 、コンボゲー、なんでも出来ちゃう」等ゲームを構成する大まかな要素がでてきて、ゲーム全体の大枠が見えてきました。

次回は「格ゲーヒット作 7つの法則」について書いてみます。

続く

2013年1月15日火曜日

アルカナハート回想録2

1はこちら

【企画を詰めていく】
今回はアルカナハートの企画を進めていく話です。

企画の立ち上げは出来る限りクライアントの意向に沿うようにと進めていくので、アルカナのキャラは「萌えが好き」とか「スタッフの趣味」とかで出来た訳じゃないんですね。結果的に、非常にいいスタッフに恵まれて少々クセのあるキャラ達にはなりましたが。

全体の方向性が決まるまではわりと早かったのですが、本格的な作業に着手するまでは結構な時間がかかってしまい、他の業務と平行して半年くらいなんだかんだとアイデア会議を繰り返してました。

この時点で、3本立ち上げた内の「中世ファンタジー路線」の企画を担当していたメインスタッフの一人が退職してしまいます。元々退職の意思は聞いていたので、担当企画が落ちたことで残る理由はなくなったのでしょう。
すごく優秀な人だったので、彼がいればかなり違ったゲームになっていたと思います。

最初の企画書では、サムスピの実績があると言うことで全員が武器を持ってたんですが、クライアントからの「武器格闘と言うのは売りずらい」という意向で、素手格闘に路線変更となりました。

実際、あの当時は武器格闘はヒット本数が少なかったので、まぁ致し方ないかと思い承諾し、企画を通す為、主人公を素手にしました。実は武器持ちキャラの方が多いのですが、主人公だけ素手にすれば素手格闘に見えてしまうと言うごまかしですね。


全員女性キャラというコンセプトに関しては、当時、格ゲーの人気上位キャラは、ほぼ女性キャラで埋め尽くされていたので、いろんな格闘ゲームの女性キャラに似せて、ゲームを作れば確実にプレイしたい層はいるかなーと考えました。

ところがクライアントの担当者がキャラ案の中の「きら」を非常に気に入ってしまったんですよ。
よりによって「きら」! その流れで他のキャラもテニスラケットで戦うとか鞄で叩くとか、学園のりのギャグっぽいアイデアが出てきちゃったんですね。
しかし「きら」みたいなキャラは全体のなかで浮いてるからいいキャラになるのであって、全部が全部あんなキャラだったらそれこそ、ただのギャグ路線になってしまう

いくつかの前例を振り返ってみても、ギャグ路線の格闘ゲームを遊んでもらうのは、それはもう難しい。

それでどうしようかということで、とりあえず主人公は学生にしようと。先程もあったように、ほぼ主人公のデザインで、ゲーム全体のイメージとい言うのは固定しますから、主人公のデザインだけはなるべくクライアントの要望にあわせようかとなるわけです。

たとえばストリートファイターならハチマキと胴着の主人公が「俺より強いやつに会いに行く」となっていれば
「格闘家が闘うゲーム」のイメージで定着しますが、キャラ全体でいうと、その大半は変なインド人だったり、獣人だったり変なやつばっかりですよね。

なので、一見、学園物で明るい雰囲気で、見ようによってはギャグにも見える風に工夫しました。ラケットだの鞄だののアイデアは、他のあまりヒットしなかったゲームの例を出して、見送りにしてもらいました。

しかし、基板の流通業と言うのは、古い体制が残っている部分が多くて、インベーダーゲームの頃に創業した方々が今だ現役でがんばってらっしゃる事も多い。先程の要望のあった学園ネタも昭和の香りがするんですね、だから販売先に説明がしやすい。

しかも、クライアントの会社は社長の力が非常に強く、社長が一言「これがいいんじゃいか」と言うと、社員全員揃って「その通りです!」って言うような社風で、流行りのデザインを持っていってもわかってもらえない。
担当にわかってもらったとしても、結局没になる。

そこで「電車男」です。

当時、ちょうどテレビドラマや映画の宣伝で「萌え~」を連発して、いかにも流行ってます!といった宣伝をしていたんですよ。

最初に萌えを言い出した人達や、本スレ追いかけてた人たちは、当然その先に行ってるので「今さらメイドだの2ちゃんねるだの言われてもなぁ」という覚めた感じでしたが、世の中の大半の人はあれでブームになって萌えを知っちゃった。


そうすると、今は「萌えがブームだ!」っていうのは、やっぱり売りやすいんですよね。なので、全キャラにわかりやすい要素をぶっこみましょうと。我々からすると完全にギャグで出した提案なんですが、営業担当は本気で受け取ってくれました。

というわけで、キャラの方向性が確定したんですね。

正直なところ、この時点では企画内容に不安もあったのですが、
「大ヒットは見込めないが、ニッチ層にある程度は受け入れられるので大失敗はしないだろう」という思いと、「次の仕事が決まっていないので、業務が継続できるなら早く決めてしまいたい」という焦りから仕事に着手することになりました。

ここまでくれば、最低限の取り決めを守りつつ、後はある程度自由に作って良い訳です。

やはりオリジナルの格闘ゲームタイトルを作れるとなると気合いも入ります。これまで何度も何度も新企画を作っては、没になっての繰り返しだったものだから、見た目はナンパでも格闘ゲームとしては骨のあるものにしたい。

こうして、本格的な製作に入ることとなりました。
続く

2013年1月9日水曜日

アルカナハート回想録1


これを書いている時点で、アルカナハートは多くのファンに愛されて、実質6作目となるLOVEMAX!!!!!も発表され、私としても心から嬉しく思っています。
最初に企画を立ち上げた時には、ここまで愛されるシリーズになるとは想像もしていませんでした。

ここで、アルカナハートを立ち上げた頃を振り返って見るのもいいかなと思い、ブログを書き始めてみました。
開発の話なのでキャラのファンにはあまり面白くない内容かもしれませんが、開発に興味のある方には楽しんで頂けるのではないでしょうか。

このブログでは、立ち上げから完成までの経緯や思ったことを綴るつもりですが、あくまで私視点ですので、当時のスタッフからしたら、それは違うだろ!と言われたり、私の記憶違いもあるかもしれません。
数年前のことですし、出来事には多面的な視点があるので、そのあたりはご理解の上読んでください。

では、アルカナハート回想録、始めまーす。

【企画の立ち上げ】
アルカナハートの企画が立ち上がったのは、天下一剣客伝のアーケード版の開発が一段落した頃でしょうか。

アーケード用の商品を販売している大手販売代理店から「新作アーケードゲームを作って欲しい」ってオーダーがあったんですね。その時点で何本か格闘ゲームの企画を進めてはいたのですが、次の仕事が決まっていなかったので、これはチャンスだと思い打ち合わせに赴きました。

話を持ちかけてくれた会社は「サムライスピリッツ零」の販売も扱っており、これが思いがけずヒット商品となったことで次の商品を自社で扱いたいって話が出てきたわけです。

「それならば、いくつか格闘ゲームの企画を作ってみます。」というわけで、当時の開発スタッフを3つのチームに分けて、3本の企画を立ち上げました。
それぞれの企画にリーダーを決め、私が担当したのは「古代遺跡格闘」でした。

で、3つの企画を持ってクライアントへ打ち合わせに行くと、当時「メルブラ」や「鉄拳4」が流行っていたので、とにかく似たようなゲームを作って欲しいって言うんですよ。

クライアントは営業の会社で一枚20万以上もする基盤を何百枚と売らなければいけない。そうすると当然「売りやすい」見た目や、店舗に説明がしやすい売り文句が必要になる。一番、売りやすいのが「儲かった○○みたいなゲーム」の一言です。そうすると、当然、市場には似たようなゲームが溢れるわけですが、売り手買い手がいないとゲームを作れないわけですよね。

鉄拳のような3D格闘は機材もなければ、スタッフのスキルも向いていない。そういうわけで「全員女性キャラ」と言うコンセプトの企画が、メルブラに似ていて非常に売りやすいということで採用となり、アルカナハートの原型になりました。

(以前、サムスピを手掛けていた事で「ナコルルが出る女性だけの格闘ゲーム」と言う無茶な注文もありましたが、さすがにそれは版権を無視し過ぎていると苦笑いで断りました...)

続く