2013年5月10日金曜日

アルカナハート回想録6



6.キャラクター数

当時、市場に出ていた格闘ゲームにはキャラ数が20人以上いるのが当たり前でしたので、流行らせるためには一作目とはいえ最低でも16体くらいが必要。
しかし、制作費はどう考えても10体分くらいしかないわけです。

そこで、メインシステムの所で考えた、”キャラとシステムを選ぶ”というアイデアを組み込んでみたんですね。
キャラが10体しか作れないなら、システムも10個つくって、かけて100体分遊べるってのはどうかと。

組み合わせが100通りと言うのは、同じキャラでも何回か遊んでもらえるし、宣伝文句としても通りがいい、何よりも面白そうだなと。

しかし、こんなシステムを作ると、システムも調整もめちゃくちゃ複雑になるし、キャラを足す毎にシステムとの掛け算をしなきゃいけなくなってしまう。
実際、フィオナ一人追加するだけで100通りから、122通りの組み合わせに増えてしまった。

なので、このシステムをいれる時点で、続編の製作は諦めていました。

7.魅力的な主人公
人気のある格闘ゲームは例外なく主人公のキャラがたっています。例えキャラ人気が低かったとしても、主人公を見ればゲームの内容や世界観が理解できる。そういう存在です。

なので、愛乃はぁとのデザインには、かなり時間をかけました。

主人公をデザインするにあたり、まずはゲーム全体の世界観を固めるため、いろんなアニメや漫画を調べまくりました。忙しいこともあって、アニメや漫画をみる機会が減っていたので、当時の流行りモノをスタッフに聞いたりネットで調べたりして、まとめて見ました。

その時見たものや過去の記憶から、いろんなアイデアは借りてきてますが、中でも特に参考にしたのが「ネギま」「リリカルなのは」「舞-乙HiME」ですかね。

流行っているものを調べていると、この3作品の共通点が「女子中学生が空を飛びながら魔法を使って闘う」って事だった。

あぁ、これか、とストンと落ちた。

企画当初は「舞姫」とか「一騎当千」あたりのイメージしていたので、主人公が高校生だったんですね。
で、製作途中で「舞-乙HiME」が発表された時に、主人公が中学生になっちゃってる。
完全にアニメキャラの流行りが中学生まで落ちてたんですよね。だから無理を言って、中学生という設定にしてもらった。

はぁとのグラフィックがある程度出来てきてから、中学生に変更させた犯人は私ですね。

で、女子中学生が闘うことが決まったので、納得出来るそれらしい設定が必要。ということで生まれたのが、妖精や天使の力を借りて、空を飛び魔法で闘う。というものでした。はぁとがパルちゃんのことを「天使さん」と呼んでいるのはその名残ですね。

以前から神智学とか妖精の存在の議論には興味があって、いつかネタにならないかなと思っていたのが、ここでピッタリとはまりました。

実話で”コティングリー妖精事件”って言うのがあって、少女が撮影した妖精の写真をめぐって、イギリス中が大騒動になった事件。コナンドイルとかも関わってた実際に起きた事件です。フェアリーテイルという映画にもなってます。
「女の子だけがアルカナを見ることができる」と言う設定は、このお話がベースになっています。

世界観がまとまり、ようやく主人公のデザインです。2000年代前半まで萌え系アニメの主人公は大体、特徴的な髪型をしているもんでしたが、キャラのニーズは段々と地味な方に向いてきている頃でした。ときメモの主人公の経緯を見ればわかりやすいですね。

この当時、主流になりかけていたのは、見た目は普通で、性格や物語の位置付けでキャラを作っていく方法。
しかし格闘ゲームの場合はそういうわけにはいかない。一目見て記憶に残るキーワードが必要なんですね。そして黒く塗りつぶしてもシルエットでわかる方がいい。ミッキーマウスやキティがこの典型ですが、格闘ゲームの主人公として定着しているキャラを並べても、だいたいはこの条件はクリアしてる。

そこでハート型のアホ毛というアイデアが出た。
これならシルエットがはっきりわかって印象も強い。
単純なアイデアだけど有名な前例もなかった。

このキーワードが決まれば後は早い。
これまで何度も没にしてきたキャラのパーツを組み合わせて完成。最後に格闘ゲームの主人公といえばハチマキだろうと言うことで、いろいろ試してみたけれどうまく行かなかったのを担当デザイナーがドット絵の腕にリボンを巻いたのが好評で採用となりました。

基本ポーズが、格闘家っぽい構えなのは、いまいち世界観やゲーム性が固まりきらないまま作り始めたので、そのなごりですね。

平行して他のキャラのデザインを進めるわけですが、正直、私にもゴールが見えていないので、デザインをみてもいまいちしっくり来ない。
で、またデザインを起こしてもらうんですが、没を繰り返すということを何度もやってしまった。
デザイナーには本当に苦労をかけたと思います。

と、ここまでで「7つの法則」はおしまいです。
文章にすると順序よくアイデアを出しているようですが、実際には、発案と没の繰り返しで、何度も何度も打ち合わせを繰り返して、ようやく答えにたどり着く、というような作業を延々とやっていました。