2013年1月15日火曜日

アルカナハート回想録2

1はこちら

【企画を詰めていく】
今回はアルカナハートの企画を進めていく話です。

企画の立ち上げは出来る限りクライアントの意向に沿うようにと進めていくので、アルカナのキャラは「萌えが好き」とか「スタッフの趣味」とかで出来た訳じゃないんですね。結果的に、非常にいいスタッフに恵まれて少々クセのあるキャラ達にはなりましたが。

全体の方向性が決まるまではわりと早かったのですが、本格的な作業に着手するまでは結構な時間がかかってしまい、他の業務と平行して半年くらいなんだかんだとアイデア会議を繰り返してました。

この時点で、3本立ち上げた内の「中世ファンタジー路線」の企画を担当していたメインスタッフの一人が退職してしまいます。元々退職の意思は聞いていたので、担当企画が落ちたことで残る理由はなくなったのでしょう。
すごく優秀な人だったので、彼がいればかなり違ったゲームになっていたと思います。

最初の企画書では、サムスピの実績があると言うことで全員が武器を持ってたんですが、クライアントからの「武器格闘と言うのは売りずらい」という意向で、素手格闘に路線変更となりました。

実際、あの当時は武器格闘はヒット本数が少なかったので、まぁ致し方ないかと思い承諾し、企画を通す為、主人公を素手にしました。実は武器持ちキャラの方が多いのですが、主人公だけ素手にすれば素手格闘に見えてしまうと言うごまかしですね。


全員女性キャラというコンセプトに関しては、当時、格ゲーの人気上位キャラは、ほぼ女性キャラで埋め尽くされていたので、いろんな格闘ゲームの女性キャラに似せて、ゲームを作れば確実にプレイしたい層はいるかなーと考えました。

ところがクライアントの担当者がキャラ案の中の「きら」を非常に気に入ってしまったんですよ。
よりによって「きら」! その流れで他のキャラもテニスラケットで戦うとか鞄で叩くとか、学園のりのギャグっぽいアイデアが出てきちゃったんですね。
しかし「きら」みたいなキャラは全体のなかで浮いてるからいいキャラになるのであって、全部が全部あんなキャラだったらそれこそ、ただのギャグ路線になってしまう

いくつかの前例を振り返ってみても、ギャグ路線の格闘ゲームを遊んでもらうのは、それはもう難しい。

それでどうしようかということで、とりあえず主人公は学生にしようと。先程もあったように、ほぼ主人公のデザインで、ゲーム全体のイメージとい言うのは固定しますから、主人公のデザインだけはなるべくクライアントの要望にあわせようかとなるわけです。

たとえばストリートファイターならハチマキと胴着の主人公が「俺より強いやつに会いに行く」となっていれば
「格闘家が闘うゲーム」のイメージで定着しますが、キャラ全体でいうと、その大半は変なインド人だったり、獣人だったり変なやつばっかりですよね。

なので、一見、学園物で明るい雰囲気で、見ようによってはギャグにも見える風に工夫しました。ラケットだの鞄だののアイデアは、他のあまりヒットしなかったゲームの例を出して、見送りにしてもらいました。

しかし、基板の流通業と言うのは、古い体制が残っている部分が多くて、インベーダーゲームの頃に創業した方々が今だ現役でがんばってらっしゃる事も多い。先程の要望のあった学園ネタも昭和の香りがするんですね、だから販売先に説明がしやすい。

しかも、クライアントの会社は社長の力が非常に強く、社長が一言「これがいいんじゃいか」と言うと、社員全員揃って「その通りです!」って言うような社風で、流行りのデザインを持っていってもわかってもらえない。
担当にわかってもらったとしても、結局没になる。

そこで「電車男」です。

当時、ちょうどテレビドラマや映画の宣伝で「萌え~」を連発して、いかにも流行ってます!といった宣伝をしていたんですよ。

最初に萌えを言い出した人達や、本スレ追いかけてた人たちは、当然その先に行ってるので「今さらメイドだの2ちゃんねるだの言われてもなぁ」という覚めた感じでしたが、世の中の大半の人はあれでブームになって萌えを知っちゃった。


そうすると、今は「萌えがブームだ!」っていうのは、やっぱり売りやすいんですよね。なので、全キャラにわかりやすい要素をぶっこみましょうと。我々からすると完全にギャグで出した提案なんですが、営業担当は本気で受け取ってくれました。

というわけで、キャラの方向性が確定したんですね。

正直なところ、この時点では企画内容に不安もあったのですが、
「大ヒットは見込めないが、ニッチ層にある程度は受け入れられるので大失敗はしないだろう」という思いと、「次の仕事が決まっていないので、業務が継続できるなら早く決めてしまいたい」という焦りから仕事に着手することになりました。

ここまでくれば、最低限の取り決めを守りつつ、後はある程度自由に作って良い訳です。

やはりオリジナルの格闘ゲームタイトルを作れるとなると気合いも入ります。これまで何度も何度も新企画を作っては、没になっての繰り返しだったものだから、見た目はナンパでも格闘ゲームとしては骨のあるものにしたい。

こうして、本格的な製作に入ることとなりました。
続く