スーパーファミコンの発売を目前に迎えたその日も僕は普段と変わらず登校した。
廊下でふと、真っ赤な顔をしている友人が目に入る。
いつもはあまり表情をかえない友人が、なにかをこらえるように押し黙っている。
僕はいつもと変わらず声をかけたのだけれど、友人から帰ってきた言葉は思いがけないものだった。
後でわかったことだが、山ちゃんは大学受験に車で向かう途中、前方の大型トラックの荷台から落ちてきた木材がフロントガラスを突き破って頭に直撃したのだという。
即死だったらしい。
「ネクロスの要塞をまだ返してもらってないじゃないか」
「昨日、渡り廊下ですれ違ったばかりだろ、いつもの合図したやん、目があって笑ってたやん」
授業開始のベルがなっても教室には行かず校内を彷徨った。
溢れ出る涙を見られないようにと、水飲み場で顔を洗っていたとき、生徒から怖がられている体育教師が注意しようと話しかけてきた。
が、僕の泣きじゃくった顔を見て、先生は何もいわずに去っていった。
先生なりの優しさだったのだろうが、そのいつもと違う態度で、山ちゃんが死んだという現実を思い知らされた。
この授業はクラス合同で、偶然に好きだった同級生と隣の席になる。それが楽しみで、いつもは必ず出席していたのだけどこの日だけはやはり憂鬱な気分だった。
それでも少し気持ちも落ち着いてきた僕はその授業からは出席することにした。
その子に泣き顔を見られるのが嫌で、美術室を飛び出した僕は自転車を走らせて10分ほどの自宅まで帰った。
僕は無理に笑顔を作りながら、なにげなく「ちょっと忘れ物」と言って家に入った。
授業はまだ続いていた。先生はやはりなにも言わなかった。
あんなに必死になって絵を描いたのは初めてだった。
真面目に働く少年だったとか、大学目指していたのに可哀想にな、とかそんな内容だった。
でもスーパーマリオワールドを遊んでも、エフゼロを遊んでも、喜びも楽しみも感じなかった。
その時、自分のやりたい事がはっきりとわかった。
気の会う友人が集まって時には本気に、時には笑い転げながら遊ぶ、そんなゲームが作りたい。
やりたいことがあったはずなのに突然の事故でそのすべてを失った山ちゃんと、目標も持たずに生きてきた僕。
友人たちも少し落ち着いた様子で、山ちゃんが気に入りそうな冗談を言い合った。
「たぶん、アルデバランみたいに他のキャラに混じって復活すんだよ」
「そうだ、王大人なら治せるんじゃね?」
「俺、ドラゴンレーダー作るわ」
最後にみた彼の顔はキレイだった。
僕は卒業製作を描き上げると、空いたスペースに彼へのメッセージを書き込んだ。
4.その名は仁義ストーム